最終更新日 2021年9月29日
質問
昨年夏に妻が勝手に子供2人(小学生)を連れて出て行きました。
その時には、妻は子供はいらない、親権も要らない、だから離婚してくれと離婚届に署名押印しました。(理由は性格の不一致)
最近になって、親権は自分にして、子供も育てると言い出し、子供もいつ黙って連れて行くかわかりません!私が出さずに持っていた離婚届を(親権は私にしたままです)出そうかと思っています。
この場合、もし子供を連れて行かれた時には、人身保護請求は出来るのでしょうか?またその効力はどうなのでしょうか?
離婚に関しては吝かではないですが、子供の事を思うとせめて中学校になるまでは両親が揃っていてやりたいです。子供は絶対に離したくありません。親権も監護権も取れますか?
妻と妻の実母には精神疾患があり、特に実母は重傷です。妻は経済力もなく、経済観念も有りません。今年の3月頃まで債務整理をしてました。
私が休みの日には、朝から寝るまで、子供達の世話は全て私がしています。
先日、妻が起こした調停も不成立に終わりそうです。
弁護士からの回答
まず、人身保護請求についてお答えします。
判例によると、夫婦の一方による子どもの監護が子の福祉に反することが明白であることを要するとされています。
この判例を前提にすると、一方の親権者からの人身保護請求は、極めて例外的な場合に限り認められるものとされます。
人身保護請求によるよりも、子どもの引渡しの審判及び監護権者指定の審判等を求めた方が現実的だと思われます。
それらの手続では、どちらが監護権者としてふさわしいか裁判所によって判断されます。
監護権者としてふさわしいかどうかは、親権者としてふさわしいかという点と重なる部分が多いので、下記をご覧ください。
子どもの引渡しの審判の効力としては、直接子どもの引渡しを執行することができるという裁判例と子供の引渡しをしなければ一定の金銭を支払わなければならないという間接強制ができるにとどまるという裁判例に分かれています。
ですので、子どもの引渡しの審判が認められたからといって確実に子どもの引渡しが可能になるわけではないことをご理解ください。
なお、人身保護請求の判決が認められると、裁判所が請求者である親権者に対し子どもを引き渡すことになります。
次に、親権、監護権についてお答えします。
まず、親権とは、子の身上に関する権限と、子の財産に関する権限からなります。
子の身上に関する権限が監護権といい、簡単に言い換えると、子どもの世話をする権限です。
基本的には、親権と監護権は分離させることがありません。
もし、離婚訴訟等で争われた場合、親権者が誰か決まって、その親権者が監護権者となるのが通常です。
今回のケースで、相談者様が親権者として認められるかという点について、お答えいたします。
親権者としてふさわしいかどうかは、いくつかの考慮要素で判断されることになりますが、当事務所では、下記の要素が重要であると考えております。
一つ目として、現在、子どもの監護を継続しているのがどちらの親かという点を考慮します。
休みの日にはお子様の監護をされているとのことですが、それ以外のときにどの程度監護に関わっているのかによって変わってくると思われます。
この点は、もう少し詳しく事情を伺わないとはっきりとしたことをお答えすることができません。
二つ目として、子どもを連れ去った行為が違法かどうかという点を考慮します。
この点は、将来どのような連れ去りをされるのか分からないので、今の時点では判断できません。
暴力を加えて子どもを連れ去ったなどであれば、親権者としてふさわしくないと判断されやすくなります。
三つ目として、母性優先の原則という点を考慮します。
母性的な関わり合いが認められる者の方が親権者としてふさわしいと判断されやすく、奥様の方が有利になりやすい要素です。
ただし、お子様がある程度大きくなってくればそこまで重要視されません。
四つ目として、監護能力という点を考慮します。
監護能力は、主に子どもの身の回りに世話が行き届いてできるかと経済力をふまえて判断されます。
奥様と相談者様のいずれが行き届いた世話ができるかという点ですが、伺っている事情だけでは判断しかねる部分があります。
奥様の精神疾患の程度により、お子様の身の回りの世話があまりできないということであれば、相談者様の方が親権者としてふさわしいということになるでしょう。
経済力の点については、他方から養育費の支払いがあったことを前提に判断します。
それを前提としたとしても、奥様の収入だけでは生活が不安定になるということであれば、相談者様の方が親権者としてふさわしいということになるでしょう。
ただし、監護能力については、親族等の監護の援助も考慮します。
奥様のお母様は、精神疾患の程度が重いということですが、それ以外の方で支援をして下さる方がいるかどうかが重要になってきます。
五つ目として、仮に親権者となった場合、親権者ではない親に子どもの面会を許容するかどうかという点を考慮します。
この点は、子どもに面会を認めない親は親権者としてふさわしくないということから考慮されることになっています。
これについては、ご事情を伺ってみないことにはわかりませんが、お互い面会を拒絶されないということであれば、どちらも甲乙つけがたいということになります。
六つ目としては、子どもの意思が考慮されます。
ただし、この点は、子どもがある程度の年齢にならないとそこまで重視されないです。
また、お子様がどのように考えていらっしゃるのかはもう少し詳しい事情を伺わないとわかりません。
七つ目としては、きょうだいの不分離という点を考慮します。
これは、子どもが二人以上いる場合、親権を分離させるのは子どもの成長にとって望ましくないために考慮されることになります。
本件では、あまり問題にならないでしょう。
以上をふまえると、これまでの監護の状況、お子様の年齢、お子様の意思等もう少し詳しい事情を伺ってみないと相談者様が親権者としてふさわしいかどうか判断しかねます。
注意をしていただきたいのは、お子様を連れ去られないようにすることです。
お子様を連れ去られると、奥様が一人で監護を行うことになり、監護の継続性の部分で圧倒的に不利になります。
また、裁判所は、現在の子どもの環境にさほど問題がなければ、実際に監護している親の方が親権者としてふさわしいとの判断をすることが多いです。
奥様がお子様を連れて出て行くという話がありましたので、それだけは回避していただきたいところです。
おおむね以上ですが、なおご不明な点がございましたら、お気軽に当事務所にご相談ください(予約制です。)